そうした動きが変化したのが、8日に発表された6月の米雇用統計の好結果。さらに変化が一気に加速したのが、13日に発表された6月の米消費者物価指数(CPI)の高い伸びです。米雇用統計は非農業部門雇用者数(NFP)が市場予想の前月比26.4万人増に対して37.2万人増となりました。雇用市場の堅調さを印象付け、大幅利上げに耐えうる米経済の力強さを示す形で、短期金利市場などで1%の利上げ見通しが出てきました。
とはいえ、現在のFF金利が主要政策金利となった1990年以降、1.00%利上げを行ったことはありません。実現した場合、公定歩合が主要政策金利だった時代の1978年11月以来約44年ぶりとなる大幅利上げには慎重な見方が強く、米消費者物価指数発表まで1%利上げ見通しはごく少数派にとどまっていました。
しかし、注目された米消費者物価指数(CPI)を受けて、1%利上げ見通しが一気に強まりました。米CPIは前年比+9.1%の大幅な伸びに。発表前にジャン・ピエール大統領報道官が今回のCPIは非常に高いものになると警告していたこともあり、5月の8.6%を超える8.8%程度の上昇を見込んでいた市場。しかし、その予想を大きく超える9.1%という水準。ガソリン価格が前年比59.9%、家庭用食品が12.2%など、生活に直接響く部門での大きな価格上昇と、米国の家計に大きく響く物価高を受けて、米FRBに対する物価高への対応圧力が相当高まるとの思惑が、1.00%利上げ期待につながりました。
米短期金利先物市場動向から計算される利上げ確率を示す「CMEFedWatch」で一連の流れを確認すると、8日の米雇用統計前日時点では0.5%利上げ見通しが3.1%、0.75%利上げ見通しが96.9%と、ごく少数の0.5%利上げ見通しが残りながら、ほぼ0.75%利上げで市場の見通しが一致していました。米雇用統計後は0.5%利上げ見通しがなくなり、0.75%利上げ見通しが92.4%、1.00%見通しが7.6%と、あくまで少数ながら1.00%の利上げを見込む動きが出てきました。そして米CPI後は0.75%利上げ見通しが19.7%と2割以下まで低下、1.00%利上げ見通しが80.3%と大きく逆転してほぼ織り込むところまで期待が広がりました。
しかし、その後は大きく調整が入り、直近では1.00%見通しは30%前後に収まり、約70%が0.75%見通しと再び0.75%見通しが大勢となっています。FRB常任理事(議長・副議長含む)の中で、最もタカ派(利上げに積極的)として知られるウォラー理事が、0.75%利上げを支持する姿勢を表明。1.00%利上げについては市場がやや先走っている感と、けん制発言を行いました。また、理事に比べるとタカ派が多い地区連銀総裁の中でもタカ派の代表格と称されるブラード・セントルイス連銀総裁も0.75%利上げを支持する姿勢を示しています。今年のFOMC投票メンバーの中で最もタカ派な二名が0.75%利上げへの支持を示したことで、市場の期待が一服した形です。
また、15日に発表されたミシガン大学消費者信頼感指数の中の5年後のインフレ見通しが2.8%と1年ぶりの低水準に下がったことも、市場の大幅利上げ期待を押し下げました。実際のインフレ動向同様に金融政策動向に影響を与えるインフレ見通しが落ち着いたことで、1%の利上げはさすがに過剰なのではとの思惑が広がっています。
さらに週末の指標が1%利上げ期待を後退させました。22日に発表された米購買担当者景気指数(PMI)は、製造業が前回からは若干鈍化も市場予想を上回るまずまずの数字となりました。しかし、前回と同水準が見込まれていたサービス業が、市場予想値・前回値さらには好悪判断の境となる50.0を大きく下回る47.0というかなりインパクトのある弱い結果に。景気動向に敏感なサービス業での景況感悪化に市場では今後の先行き警戒感が広がり、1.00%利上げは出来ないだろうという見通しが強まりました。
こうした流れから、今回のFOMCでの利上げについては、約81.1%が0.75%、約18.9%が1.00%という状況に。11年ぶりの利上げを決めた21日のECB理事会において、市場予想が0.25%と0.50%で別れる中、0.5%で決まるなど、世界的に積極的な利上げ姿勢が強まっていますが、それでも1.00%は行き過ぎという見通しです。このまま0.75%で決まるとサプライズ感はありませんが、ウォラー理事などの発言を受けても2割弱が1%の利上げ見通しという状況をどうとらえるか。声明やパウエルFRB議長会見で、今後の積極利上げ姿勢を示してくるようだと、物価高への警戒感が強い市場のドル買いを誘う可能性があります。
MINKABU PRESS 山岡和雅