これまでの積極的な利上げが、SVB破綻の一員となったことや、利上げを受けて米景気鈍化懸念が広がったことが、物価高を受けた利上げ継続見通しの修正につながりました。
3月初めごろまでは6月か7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)まで利上げが続き、ターミナルレート(利上げの終着点)については、5.25-5.50%か5.50-5.75%で見方が分かれるという状況になっていました。12月のFOMCで示されたFOMCメンバーによる2023年末時点での政策金利見通し(ドットプロット)(その時点では2023年の利下げ見通しがほとんどなかったので、事実上のターミナルレート見通し)5.00-5.25%を超えるところまでの利上げを見込む、積極的な引き締め見通しです。
しかし、SVB破綻などの影響で見通しが大きく鈍化。3月初め時点では0.5%が見込まれていた3月のFOMCでの利上げが、SVB後0.25%もしくは据え置きと変化。結果は全会一致で0.25%利上げとなりました。5月については据え置きと0.25%利上げ継続かで見通しが分かれていますが、利上げした場合でもそこで打ち止め。ターミナルレート見通しは現行の4.75-5.00%か5.00-5.25%となっています。直近では4月に入って発表された米主要経済指標の弱さもあり、現行の4.75-5.00%がターミナルレートになるとの見通しが若干強いようです。
3月のFOMCでのメンバーによるドットプロットでは、12月と同じく5.00-5.25%が大勢の見通しとなっていますので、ドットプロットでの中心シナリオより市場の引き締め期待が強いという状況から、ドットプロットより市場の引き締め見通しが弱いという状況です。
こうしたFOMCで示された姿勢と市場に見通しの乖離は、今後の利下げについて、より顕著です。
ドットプロットだけでは年内の利下げ期待があるのかどうか、正確には分かりませんが、3月のFOMCでのパウエルFRB議長の会見では年内利下げをはっきりと否定。ドットプロットでの年末時点での金利水準見通しを見ても、年内利下げは見込んでいないように見えます。
しかし、短期金利市場動向などからみた市場の見通しは、年内利下げを完全に織り込んでいます。利下げ時期としては7月が最も優勢。年内複数回利下げの見通しも広がっており、現在最も中心的な見方では年内3回の利下げで、年末時点での政策金利水準が4.00-4.25%となっています。
とはいえ、こうした見通しは今後の経済状況によって大きく変わります。米連邦準備制度理事会(FRB)は金融政策運営における二大命題(デュアルマンデート)として雇用の最大化と物価の安定が課せられていることから、雇用と物価の統計が特に重要となります。
そうした中、12日に米消費者物価指数(3月)が発表されます。前回2月は前年比+6.0%,食品とエネルギーを除くコア前年比+5.5%となりました。ともに1月から若干鈍化。市場予想とは一致しました。
項目別にみると、サプライチェーン問題一服による自動車生産の回復を受けて中古車価格の下落が目立ち、前年比-13.6%となりました。前年比マイナスは4カ月連続、マイナス幅は2月が最も大きくなっています。前回はプラス圏を回復したガソリン価格は-2.0%と冴えない状況が続きます。1月から2月にかけてはガソリン小売価格(全米全種平均)が上昇していますが、2022年の同時期、ガソリン価格の上昇がより大きくなっていたため前年比の伸びはマイナスとなりました。いわゆるベースメント効果といわれるものです。
一方、昨年後半非常に高い伸びが続いた航空運賃が前年比+26.5%と大幅な伸びを維持。自動車保険も+14.5%とかなりの高水準が続いています。家賃の更新時期などの関係で、他の項目に比べて変化が遅れがちな住居費も+8.1%と上昇傾向を維持しました。
今回の市場予想ですが、全体では前年比+5.2%と伸びが一段と鈍化する見通しになっていますが、食品とエネルギーを除くコアでは5.6%と伸びが強まる見込み。全体とコアの水準も逆転する見込みです。
2月から3月にかけてガソリン価格(全米全種平均、米エネルギー情報局調査による価格)は0.98%の上昇となっていますが、2022年の2月から3月は20%を超える上昇を見せていましたので、ベースメント効果が強く出て大きくマイナスになるという見方が広がっています。
その他項目については、上昇傾向が続くということで、コアの伸びが強まるなどの見通しとなっています。
鈍化傾向があるとはいえ、水準的には依然としてかなり高い現在の米物価状況。予想通りコアの伸びが強まるという結果を見せた場合、市場の早期利下げ期待が後退し、ドル買いとなる可能性があります。
MINKABU PRESS 山岡和雅