前回2月の雇用統計は非農業部門雇用者数(NFP)が市場予想の前月比+22.5万人を大きく上回る+31.1万人となりました。しかし、失業率が予想外に1月から悪化し3.6%となったこと(市場予想は1月と同じ3.4%)や、平均時給の伸びが前月比、前年比ともに1月を下回ったことなどが嫌気され、発表後は米利上げ期待が後退する形で、ドル売りが広がりました。
0.25%の利上げを決めた3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)に関して、前回の雇用時計の発表前まで、0.5%利上げ見通しが大方の見方を占めていました。雇用統計後に0.25%利上げ見通しが少し強まり、SVB破綻を受けて0.5%利上げ見通しがほぼなくなるという流れを見せた形です。
今後についてはSVB破綻の余波もあり、積極的な引き締め姿勢をとることは難しいという見方が広がっています。次回5月のFOMCについては0.25%利上げ継続と、金利据え置きで3月の利上げをいったんの終着点とする見方で市場の見通しが分かれています。今回の雇用統計が弱めに出た場合、政策金利の据え置き見通しが広がり、ドル売りの材料となりそうです。また、今後の金融政策動向について、パウエル議長が否定し続けているにもかかわらず、市場は年内利下げ開始期待を強めています。短期金利市場では7月のFOMCでの利下げ開始、年内複数回利下げを織り込む動きを進めています。今回の雇用統計次第ではこうした見方がさらに強まり、ドル売りが加速する可能性があると考えています。
今回3月分の市場予想は非農業部門雇用者数が前月比+24万人と前回から伸びの鈍化が見込まれています。失業率は前回と同じ3.6%、平均時給は前月比が+0.3%と前回より強い伸びが見込まれているものの、前年比は+4.3%と前回よりも弱めの伸びに留まる見込みとなっています。
非農業部門雇用者数の伸びは鈍化しているものの、このところの結果を見ると、1月が+18.9万人予想に対して+51.7万人(その後50.4万人に改定)、 2月が+22.5万人予想に対して+31.1万人と市場予想を上回る結果が続いています。
今回も予想を超える伸びとなる可能性が意識されます。
また、予想前後だった場合でも、+24万人は水準的にはかなりの伸びです。新型コロナの感染拡大前10年間の平均は月次+18.3万人。20万人超えが強い数字の一つの目途とされていたことを考えると、十分な伸びと言えます。
関連指標も見ていきましょう。
3日に発表されるISM製造業景気指数(3月)は47.5と前回の47.7から小幅鈍化、景気の拡大・縮小を示す目途となる50を下回る水準の維持も見込まれています。SVB破綻後の金融不安などの影響が出ていると見られます。内訳の内、雇用部門は前回49.1と前々回の50.3から鈍化しました。同部門の回復が見られるかどうかも合わせて確認したいところです。
4日に発表されるJOLTS(米労働動態調査)求人数(2月)は1050万件とこちらも前回の1082.4万件から鈍化見込みです。1000万件を大きく超えており、決して弱い水準ではありませんが、このところがかなり強かっただけに、少し気になります。なお、予想通りだとすると昨年8月分以来の低水準となります。とはいえ、2月の雇用統計での米国全体の失業者数は593.6万件。求人数は失業者数を大きく上回った状況を維持していますので、予想前後であれば大きな懸念にはつながらないと思われます。なお、同指標は2月の数字ですが、2月末時点での数字のため、今回発表される3月の雇用統計の調査期間(3月12-18日)に比較的近い調査対象期間となっています。
5日に発表される米ISM非製造業景気指数(3月)は54.3と前回の55.1から鈍化見込みとなっています。こちらも製造業同様に金融不安の影響が出ている可能性があります。非製造業は前回の雇用部門が54.0と前々回の50.0から大きく伸びました。今回も同部門が強めの数字を示すかどうかが注目されます。
新規失業保険申請件数は調査機関の重なる3月12-18日の数字が19.9万件と、2月12-18日と全く同水準です。
直近の金融不安などの状況。関連指標の予想状況などを見ると、今回の市場予想前後の数字が出てきそうなところです。その場合、追加利上げの期待を押し上げるだけの勢いはないものの、利上げ期待後退とまではいかないというところで、相場への影響は限定的なものにとどまりそうです。市場の関心は12日発表の米消費者物価指数に移ると考えられます。ただ、関連指標の結果次第では予想値が大きく変わる可能性があること。雇用統計の結果はブレが大きく予想外の結果に大きな動きが出る可能性があることは注意しておきたいです。
MINKABU PRESS 山岡和雅