先週のジャクソンホール会議でのパウエル米FRB議長の積極的な引き締め姿勢維持を受けて、今月の米連邦公開市場委員会で0.75%利上げの期待が強まっています。とはいえ、0.5%の利上げ見通しと拮抗していた状況から7対3になった程度。
明日の雇用統計、来週の米消費者物価指数の結果次第の面がかなり大きいと思われ、今回の雇用統計への注目度が高まっています。
まずは前回の結果を確認しましょう。
前回7月分は非農業部門雇用者数(NFP)が市場予想の前月比+25.0万人をはるかに超える+52.8万人となりました。前々回6月分の数字が前月比+37.2万人から+39.8万人に上方修正された上で、そこからの比較での力強い伸びということで、相当に強いという印象です。失業率は3月分から6月分まで3.6%での横ばいが続いていましたが、前回は3.5%に低下。パンデミック前の2020年2月の水準と並びました。
平均時給も前月比+0.5%、前年比+5.2%とともに予想に反して6月分から上昇と、軒並みの好結果を見せています。
米国はGDPが第1四半期、第2四半期と2期連続でのマイナス成長となり、テクニカルリセッション入りしたことで先行きの警戒感が広がっていましたが、前回の雇用統計の好結果を受けて、警戒感が後退。今のドル全面高に至る流れにつながっています。
続いて前回の非農業部門雇用者数の内訳を確認してみましょう。
まず目立っているのが教育・医療福祉部門の前月比+12.2万人です。特に医療・社会扶助部門は+9.66万人も伸びています。日本でも人手不足の介護部門を含む同分野は、米国でも雇用が伸びやすい部門ではありますが、相当に力強い伸びという印象です。続いて目立つのが、このところの大幅増を支える部門の一つであるレジャー&ホスピタリティ部門の+9.6万人。中でも飲食部門は7.41万人の大幅増です。1100万人以上の雇用者を抱える同部門は、コロナ禍で一時大きく雇用を減らした部門ですが、順調な回復を見せています。前回の発表でパンデミック前の雇用者数を季節調整後の数字で初めて上回った非農業部門雇用者数(季節調整をかけない素のデータでは5月時点で上回っています)。飲食部門に関してはまだパンデミック前の水準から63.46万人少ない水準にとどまっており、まだ上昇余地がありそうです。その他建設部門が+3.2万人、製造業が+3.0万人、小売業が+2.16万人、運輸・倉庫が+2.09万人、専門及びビジネスサービスが+8.9万人と幅広い分野での買いが入っています。
半導体不足などからくるサプライチェーン問題を抱える自動車及び同部品は-0.22万人と小幅ながらマイナス圏。小売業の内訳をみると自動車ディーラーが-0.13万人となるなど、自動車関連はまだ不調が続きます。
雇用の先行指標とされるテンポラリーヘルプサービスは+0.98万人と小幅ながらプラス圏です。
関連指標も確認しましょう。週間ベースの新規失業保険申請件数は基準日の12日を含み、調査期間が重なる週の比較をすると、7月が26.1万件、8月は25万件と、8月の方が好結果となっています。
昨日発表されたISM製造業は市場予想の52.0を上回り、前回と同じ52.8となりました。内訳をみると注目度の高い新規受注が前回の48.0から51.3、雇用が49.9から54.2へ大幅改善。今晩の雇用統計への期待につながっています。
なお、集計方法変更で6月分、7月分と発表の無かったADP雇用者数が、8月分から再開されました。集計方法変更でこれまでと数字の出方が変わっただけに判断が難しいですが、予想の+29.5万人に対して13.2万と相当弱く出ています。
こうした状況を踏まえ、今回の予想です。非農業部門雇用者数は前月比+30.0万人。予想通りの伸びにとどまると、昨年4月分の+26.3万人以来、約1年4カ月ぶりの低い伸びとなります。もっともパンデミック直前の2020年2月の雇用者数が1億5250万人なのに対して、前回が1億5254万人と、パンデミック前の雇用者数を超えてきただけに、今後はコロナ禍で雇用が減った分の回復という底上げ材料が薄れてきます。パンデミック前の状況で30万人増は相当強めの数字だったことを考えると、決して弱いとはいえない水準です。
失業率はパンデミック直前の水準に並んだ前回と同水準の3.5%が見込まれています。6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で示されたSEP(3月、6月、9月、12月のFOMCで発表されるFOMC参加メンバーによる経済見通し)で、今年年末時点での失業率見通しは3.7%となっています。今後の景気鈍化が見込まれる中で、失業率も悪化していく可能性が意識されていますが、今のところ好水準を維持するという見通しです。
26日に行なわれたパウエルFRB議長によるジャクソンホール会議での講演で、FRBは物価に対する強力な手段を活用する、引き締め政策は一定期間必要になる、全体的な焦点はインフレ率を2%以内に引き下げること、速すぎる緩和リスクを歴史が警告と、積極的な利上げ姿勢の継続を示唆しました。もっとも9月の利上げ幅についてはデータ次第という前回FOMCと同じ姿勢を強調しています。
米FRBの二大命題 雇用の最大化と物価の安定を考えると、今回の雇用統計と13日の消費者物価指数が20日、21日に予定されている米連邦公開市場委員会(FOMC)に与える影響は相当に大きいと考えられます。予想前後もしくはそれ以上の好結果が出てくるとドル買いの動きがもう一段強まる可能性があります。
MINKABU PRESS 山岡和雅