市場は、ウクライナ情勢への懸念を一服させており、株高・円安の動きがドル円を押し上げている。ここ数年、これほど円安になったことはなかったが、FRBが更にタカ派な発言を行えば、円安はさらに進む可能性もあるとの声も出ている。
広義の実質実効為替レートを見ると、円は崖から転落しており、かなりの割安感が出ている。しかし、ドル円は120円を突破し、どちらかといえば、ウクライナ危機はリスク回避の円高を誘導せず、市場はFRBの引き締めシナリオに傾斜しているという。
パウエル議長の前日の講演は、先週のFOMCに引き続き、タカ派姿勢を強め、0.50%の大幅利上げの可能性も強調していた。まさに鳩の群れの中に猫を放り込む言及だったという。一方、黒田日銀総裁は、日銀が他の中央銀行と同様に引き締めに転じるという憶測を否定。日銀はコモディティ価格に起因するインフレの急上昇を見極めたいと考えているようだ。それは、実質金利差が今後数カ月でさらにドルに有利になることを示唆しており、円は買い場との感触があるにもかかわらず、円を買おうという機運にはなれないようだと指摘。しかし、現在のようなトレンドが定着すると仮定した場合、オーバーシュートする傾向があることは留意する必要があるとも言及している。
ユーロドルはロンドン時間の朝方に1.0960ドル付近まで下落していたが、NY時間にかけて買い戻しが膨らみ、1.10ドル台を回復した。本日の21日線が1.1065ドル付近に来ているが、その水準はなお上値が重そうだ。
前日のパウエルFRB議長の講演から、FRBが早いペースでの利上げに踏み切ることが期待される一方で、ECBによる最初の利上げはしばらく先になりそうだとの見方も出ている。ECBがどの程度、利上げを遅らせる可能性があるのか、市場は探っているという。
現状、米国ではフリー・マネーが終焉を迎えているが、欧州ではECBが有利な資金調達環境に固執しており、資産購入を継続し、政策金利をマイナスに据え置いている。しかし、いつまでも続けることはできない。市場は目下、ECBの年内利上げを0.40%程度で織り込んでおり、9月に最初の0.15%の利上げで織り込んでいる。年内1回ないし2回の利上げ、利上げ開始は第3四半期以降といったところのようだ。
ポンドドルは1.32ドル台半ばまで上昇。一時1.3275ドル付近まで上昇したものの、本日1.3245ドル付近に来ている21日線を上回ると上値抵抗も強まるようだ。
ポンドは明日、二つの大きなイベントリスクを控えている。1つは英消費者物価指数(CPI)を始めとした一連のインフレ指標の発表。そして、もう1つは、スナク英財務相の春の予算案の発表だ。市場からは、明日のインフレ指標が予想を上回る強い内容となれば、ポンドは上げ幅を拡大する可能性があるとの指摘が出ている。もし、インフレが上昇し続け、賃金が上昇スパイラルに陥るリスクが高まれば、英中銀は再び積極的な利上げを実施する可能性があるという。先週の英中銀金融政策委員会(MPC)ではウクライナ情勢を警戒して、タカ派姿勢を後退させていた。
MINKABU PRESS編集部 野沢卓美