今週のドル円は心理的節目の120円をあっさりと突破し、122円台まで上昇している。上方向に鮮明にレベルシフトした印象だ。これまで市場が感じていた2つの主なリスクに対して、ひとまず何らかの道筋が見え始めてきたことが要因かもしれない。
2つのリスクとは「ウクライナ危機」と「インフレに対するFRBの姿勢」だが、ウクライナ危機に関しては依然として混沌としているものの、ウクライナ軍が善戦していることもあり、ロシアが妥協し、何らかの形でひとまず停戦合意するのではとの期待が高まっている。ただし、前回も述べたが、これについてはロシアへの経済制裁の取り扱いも含めて、流動的な情勢が長期間続く可能性は留意する必要がある。
そして、「インフレに対するFRBの姿勢」だが、これがドル円を押し上げた最大の要因と思われるが、FRBはインフレ抑制に向けて、想定以上にかなりタカ派な姿勢であることが確認できたことだ。今週はパウエルFRB議長の講演が行われていたが、先週のFOMC以上にタカ派姿勢を強め、0.50%の大幅利上げの可能性も強調した。市場からは、年内に0.50%の大幅利上げが複数回実施されるとの見方も出始めている。5月、6月との声もあるようだ。
また、中立金利を超えて利上げを行う可能性に言及している。先日のFOMCで示されたFOMCメンバーの金利見通し(ドット・プロット)の中央値は、今年末が1.875%(1.75-2.00%)、2023年末が2.875%(2.75-3.00%)となっていた。2024年末も2.875%であることから、今回の利上げサイクルの終着点であるターミナル金利は2.875%で、2023年までの到達を見込んでいるようだ。市場の推計では、中立金利は2.25%または2.50%程度との見方が多い。今回のドット・プロットからは、中立金利を超えた水準までの利上げも想定していることになる。
FRBにはインフレ抑制と雇用最大化の2大責務が課せられている。雇用も足元は最大化に接近しつつあることから、いまは何としてもインフレを抑制したいとの思いのほうが強いようだ。
今週のドル円は122円台まで上昇した。本邦勢の年度末要因も考えられるが、上値追いが急速に加速している。米国債利回り上昇、日本の主要輸入品である原油や穀物の上昇も想定される中、本邦勢からすれば、ドルを十分に調達しておきたいとのインセンティブが働いてもおかしくはない。
下記の確率を見ても上値期待が更に高まっている。124円と120円に着目すると、来週以降、4月末までに124円に1度でも到達する確率は、前週の9.2%から55.5%に急上昇。一方、120円は76.3%から50.5%に低下した。
ただ、確率的には上下さほど変わらない水準。市場は、本邦勢の年度末の特殊事情と見ている可能性もあるが、このところの急上昇で買われ過ぎへの警戒感が強まっている可能性は十分ありそうだ。過熱感を測るテクニカル指標であるRSIは買われ過ぎの水準である70を遥かに上回り、84まで上昇。2016年11月以来の高水準となっている。
確率的には「上値期待は高いが、いつ売られてもおかしくはない状況」といった印象だ。
◆来週以降4月29日までに各ポイントを1度でも付ける確率
()は先週末
126円:21.1%( 1.9%)
125円:34.6%( 4.3%)
124円:52.9%( 9.2%)
123円:75.7%(17.8%)
122.05円(週末終値)
120円:52.9%(76.3%)
119円:34.4%(95.5%)
118円:20.6%(69.4%)
◆来週以降5月31日までに各ポイントを1度でも付ける確率
()は先週末
126円:34.7%( 7.4%)
125円:47.8%(12.4%)
124円:63.5%(19.9%)
123円:81.5%(30.4%)
122.05円(週末終値)
120円:65.1%(81.7%)
119円:49.6%(96.7%)
118円:36.1%(77.4%)
※ドル円のオプション取引から算出
MINKABU PRESS編集部 野沢卓美