今週は何と言っても米消費者物価指数(CPI)の発表が注目であっただろう。総合指数が前年比で9.1%、コア指数が5.9%だった。エネルギー、食品を含んでいる総合指数は1981年11月以来の高水準となった。
これを受けて今月のFOMCでの0.75%ポイントの利上げが確実視されるほか、1.00%ポイントのフルポイント利上げもあり得る数字との声も聞かれた。これだけ強く上昇しているとFRBも無視できないという。ただ、0.75%ポイントを支持するFOMCメンバーの発言が伝わったこともあり、その期待は急速に後退。ウォラーFRB理事やタカ派の急先鋒となっているブラード・セントルイス連銀総裁までも0.75%の支持を表明していた。
FOMCメンバーは火消しに回った印象もあり、短期金融市場では1.00%ポイントの利上げの確率が一時85%程度まで高まっていたが、30%程度に急低下している。明日の土曜日以降、7月27日のFOMC結果発表までFOMCメンバーは金融政策の関する発言を控えるブラックアウト期間に入り、今週の発言が最後だった。
これまでFRBは事前に発言やインタビューなどで市場に政策意図を十分に織り込ませ、そのうえで発表当日はサプライズを起こさないスタンスを持っている。それからすると、やはり0.75%ポイントの利上げが有力と思われる。
一方、インフレがかなり過熱気味になってきている半面、そろそろ冷めそうな気配も指摘されている。今回の米CPIの総合指数の多くはガソリン価格の上昇に起因している。バイデン大統領も「今回の米CPIは古い数字だ。ガソリン価格はこの30日間下落している」と述べていたが、確かに6月の米国のレギュラーガソリンの平均価格は1ガロン4.93ドルで、5月の4.44ドルを上回った。しかし、その後は下がり続け、今週初めの時点は4.65ドルとなっている。加えて、先月からのガソリン先物価格の下落を見る限り、さらなる価格下落も予想される。
他のインフレ要因も緩和が期待されている。トウモロコシやココアなどの作物を含むS&P・GSCI農業指数は5月のピークから約25%下落し、工業金属指数は33%下落している。高騰していた中古車の卸売価格も5月から下落傾向を鮮明にしており、いずれ店頭価格に反映されそうだ。一方、ウォルマートやターゲットなどの小売業者は過剰在庫の処分に動き始めている。家電や家具などパンデミック後に価格が上昇した商品の多くは、今後数カ月の間に価格下落が顕著になる可能性が高いという。
ただ、物価上昇の緩和期待はどこでも見られるわけではなく、特に家賃は上昇が激しい。インフレ指標には大きく米CPIとPCEデフレータの2つがあり、FRBは後者のほうを参考指標として重視している。米CPIは住宅所有者の住居費を帰属家賃としてインフレ指標の構成項目に入れており、家賃と帰属家賃は消費支出全体の30%以上を占めることもあって、その影響がより顕著に出る。一方、PCEデフレータは住宅コストの比重が低く、家賃の影響はそれほど大きくは出ないものの、それでもインフレを上昇させるのに十分な強さを持っている可能性はある。
期待通りであれば今後、FRBの積極利上げの姿勢も緩和し、それに伴ってドルも巻き戻される可能性があるが、ポイントとしてはやはり労働市場、とりわけ賃金であろう。こればかりは景気との兼ね合いもあるので良し悪しは別として、労働市場が依然として強ければ、賃金上昇が物価上昇圧力を持続させる可能性があると判断し、FRBは引き続きインフレに軸足を置くであろう。逆に労働市場は緩めば、FRBの姿勢は大きく転換せざるを得なくなる。リセッション(景気後退)の文字が踊りようであれば、利下げ姿勢に変更するであろう。入口も難しいが、出口はさらに難しそうだ。
いずれにしろ、ドル円について言えば、140円を突破してからのシナリオになるのかもしれない。
◆来週以降7月29日までに各ポイントを1度でも付ける確率
()は先週末
142円:31.5%(12.6%)
141円:47.3%(20.0%)
140円:67.0%(30.4%)
週末終値:138.57円(136.10円)
135円:30.9%(78.7%)
134円:19.0%(60.2%)
◆来週以降8月31日までに各ポイントを1度でも付ける確率
()は先週末
142円:53.5%(29.3%)
141円:65.6%(37.7%)
140円:79.1%(47.8%)
週末終値:138.57円(136.10円)
135円:57.2%(86.7%)
134円:46.4%(74.4%)
※ドル円のオプション取引から算出
MINKABU PRESS編集部 野沢卓美
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次回は7月30日(土)午前の配信を予定しています。
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