先週のパウエルFRB議長の講演を受けて、FRBは市場が予想していた以上にタカ派色を強めていることがドル買いを加速させている。パウエル講演後の米地区連銀総裁の発言もタカ派色を強めている印象だが、特にメスター・クリーブランド連銀総裁が「政策金利は来年早々にも4%超に達し、来年の利下げはない」との見通しを示したことは驚きだったようだ。市場は今回の利上げサイクルの着地点を3.75~4.00%程度、来年後半には利下げとのシナリオを織り込んでいる。そのような中でのメスター総裁の発言は、市場にタカ派な印象を与えた模様。
結局、為替市場はドルしか買えない状況となっている。欧州では当初の想定以上にインフレが高く、英国では来年始めに20%以上までインフレが高騰する可能性も有り得るとの予想まで出ている。ECBや英中銀の利上げ見通しも上方修正されている格好だが、市場はそれ以上にリセッション(景気後退)への警戒感を強めている。米国のほうがまだ傷が浅いとの見方から、資金がドルに集中しているものと見られる。
今週は米雇用統計が発表されていたが、失業率が3.7%に上昇していた半面、労働参加率も上昇している。女性の労働参加者が増えたことが要因とみられているが、感染拡大で閉鎖していた学校が新学期を迎えて通常通りに再開する中で、女性が子供の面倒を見る必要がなくなったことが背景とも言われている。
FRBは、リセッション(景気後退)に陥ってでもインフレ抑制が最優先との姿勢を強調しており、ソフトランディングのシナリオに距離を置き始めている印象もある。しかし、市場はなお、ソフトランディングのシナリオを捨てていない。失業率が上昇しても、それは労働者が職を失うからではなく、職に就いていない人が職探しを始めるからだという。
通常、失業率の上昇は経済が失速し、解雇が相次ぐことにより起こる。その結果、米GDPの7割を占める個人消費に支障をきたし、まさに不況と呼ばれる状況に陥る。しかし、今回はそうではなく、金利上昇に直面した雇用主が新規採用を控えるのと同時に、パンデミック時に仕事を辞め労働市場から一旦退場した人々が労働市場に戻ろうとする。最初は職探しから始めるので、失業者にカウントされ、失業率は上昇する。ただ、実際の総雇用者数はさほど落ち込まず、所得や支出に一定の下押し圧力はかかるものの、深刻な景気後退を招くことない。まさにソフトランディングのハッピーシナリオだ。エコノミストの半数はソフトランディングのシナリオを維持しているようだ。
失業率は2023年には4.6%まで上昇との予想も出ているようだが、それと並行して、就業者と求職者の両方を含む労働参加率は62.9%まで高まる可能性があるという。今週の米雇用統計では62.4%に上昇していた。ただ、それでもパンデミック前の2020年2月の水準を1%ポイント程度下回っている。まだ、改善の余力が十分にあるという意味のようだ。人口の高齢化で説明できそうだが、35歳から44歳の働き盛りの年齢層の労働参加率も82.8%で、パンデミック前の83%台からは低下している状況。
上記ハッピーシナリオの実現性は未知数だが、もし、実現すれば、米経済は過去の労働市場のパターンから脱却し、パンデミックがもたらしたもう1つの特異な遺産となるのかもしれない。
◆来週以降9月30日までに各ポイントを1度でも付ける確率
()は先週末
145円:29.7%(13.0%)
144円:40.5%(18.8%)
143円:53.6%(26.3%)
週末終値:140.20円(137.64円)
136円:39.0%(76.1%)
135円:28.3%(62.0%)
134円:19.7%(48.8%)
◆来週以降10月31日までに各ポイントを1度でも付ける確率
()は先週末
145円:43.3%(22.8%)
144円:53.0%(29.3%)
143円:63.9%(37.0%)
週末終値:140.20円(137.64円)
136円:55.7%(54.9%)
135円:46.2%(45.3%)
134円:37.5%(36.5%)
※ドル円のオプション取引から算出
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今回でこのコラムは終了します。ご愛顧ありがとうございました。
MINKABU PRESS編集部 野沢卓美