朝方に米消費者物価指数(CPI)が発表。総合指数で前年比8.3%、前月比0.3%と前回から伸びが鈍化したものの、市場はインフレへの懸念を温存している。コア指数の前月比の伸びが予想以上に続いていることで基調インフレは加速との見方も出ていた。医療、レクリエーション、通信などのサービス部門の価格上昇が見られ、人件費の上昇が価格に転嫁されている気配も出ている。「サービス価格がさらに上昇し続ければ、FRBは賃金と物価のスパイラルの否定がますます難しくなり、それを認識することがさらなるタカ派リスクになる」との指摘も出ていた。
市場では、今回の米CPIはインフレがピークに達している兆候を示すとの期待も出ていた。確かに総合指数は前回よりも伸びが鈍化していたものの、ピークアウトへの確信には至っていないようだ。
FRBや他の中銀もインフレを引き下げようと躍起となる中で、景気後退を伴わないソフトランディングを達成できるのか、市場では懐疑的な見方が強い。パウエル議長は先週のFOMCで0.75%の利上げ期待は退けたものの、6月FOMC以降、0.50%利上げが継続されるとの予想も増えている。一方、ECBは資産購入終了後すぐにでも利上げに踏み切る意向を滲ませており、早ければ7月にも最初の利上げが開始されるとの見方が強まっている。各国中銀の積極引き締めが需要を一気に冷え込ませ、景気後退を誘発するとの見方が更に強まっているのかもしれない。
ユーロドルは米CPIの発表を経てドルに戻り売りが強まったことで、1.05ドル台後半まで上昇する場面が見られた。ただ、次第にリスク回避の雰囲気が強まる中で1.05ドル台前半に伸び悩んでいる。米CPIはFRBの積極利上げ期待を裏付ける内容となったが、ここに来てECBの早期利上げ期待も強まっている。これまで慎重だったECBも、このところタカ派なレトリックを強めており、多くのECB理事が6月か7月の利上げに言及している。市場では年末までにECBが3-4回の利上げを行い、中銀預金金利をプラス圏に浮上させるとの観測が強まっている状況。
きょうはラガルドECB総裁がスロベニア中銀主催のイベントで講演していたが、年内の利上げ開始を明確に示唆し、利上げを求めるECB理事が増えていることも明らかにした。資産購入を第3四半期に終了する可能性が高く、その後、“しばらく”して利上げが行われることになるとも述べた。総裁は、「しばらく」という表現が曖昧であることを認めた上で、それは数週間程度になる可能性があるとも付け加えた。ただ、ECBの正常化プロセスはあくまで段階的であり、投資家はFRBや英中銀のような積極利上げを期待すべきではないとも付け加えていた。
ポンドドルは下値模索が続き、1.22ドル台半ばまで下げ幅を拡大。米CPIの発表を経てドルに戻り売りが強まったことで1.24ドル付近まで上昇する場面も見られた。しかし、リスク回避の雰囲気から再び売りが強まっている。目まぐるしい展開となっていたが、基本的にはドル主体の動きでポンド自体の動きはない。
ポンドの目下の話題は、トラス英外相が北アイルランド議定書の一部破棄のための法案を作成したと報じられ、EUとの貿易交渉を巡る不透明感が再び強まっていること。英政府がそのような法案を議会に提出した場合、EUからの報復措置を誘発し、ポンドにとってはマイナスとの指摘も出ている。
一方、EUとの協議が難航する中、英政府がEUからの譲歩を引き出したいための行動というよりも脅しに近い可能性もあるとの指摘も出ている。英国は以前にもこのような圧力をかけたが、望む結果は得られておらず、懐疑的だという。議定書を破棄することは英政府が将来貿易協定を結びたい相手国、特に米国を激怒させるリスクがあるとも指摘。英政府がEUとの貿易戦争の火種になることを行うことを過度に心配する必要はないという。
MINKABU PRESS編集部 野沢卓美